2013年05月24日

アズキの脱走物語 1


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 4月の下旬の夕方、妻の手からアズキがリードごと
スルリと抜けて行った。
「アズキ〜!帰るよ。戻っておいで」
妻が大声で呼んだが向かいの畑を走り回っていて
帰って来る様子が無い。
それならばと、おやつが入っているビニール袋を揉んで
ガサガサと音を立ててみた。
これまでなら、この音に騙されて事務所の中に飛び込んで来るのだが、
全くの無視で走り回っている。
さっきまで薄暗い程度だった外が、墨でも流したように闇夜に急いでいる。
生憎の曇り空で月明かりさえ貰えない。
闇夜に黒いアズキは溶けてしまい、気配すら感じられない。
夕餉の支度もあるので、取りあえず事務所の玄関を開けて
照明も点けて一旦、自宅に帰る事にした。
「何処かでリードが絡まって動けないでいるのかな」
「それならまだいいよ。あいつ、車を怖がらないから事故が怖いよ」
 モヤモヤした気分のまま、自宅に帰った。
妻は夕餉の支度に入ったが、いやな予感が頭を離れない。
「俺、探しに行って来るよ」
「うん、お願い」
妻はイブが死を賭けた手術に一人で立ち会って、その賭けに破れ
一人でイブの最後を看取っていて、これがきっかけで9年間も
犬が飼えなくなっていたので、万が一アズキに何かあれば
そのショックは大きいものになるだろう。

 取りあえず事務所に戻ってみた。
ちゃっかり事務所で寝そべっていることに淡い期待を掛けていた。
しかし、居なかった。
軽トラックのヘッドライトを上向きにして辺りを徐行で探しまわった。
見つからない。
近所の犬の吠える声が聞こえてくると、急いで電灯を手に走った。
居ない。
仕方なく自宅に戻った。
会話の無い夕飯を早めに切り上げて、息子と二人で探しに行った。
1時間近く、探しまわったが見つからない。
真っ暗の中を黒いアズキを探すのは無理だと判断し、この日は諦める事にした。
幸いなのは、雨の予定は無く、曇り空で気温もそれほど下がらない事だった。

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posted by アズキパパ at 15:45| Comment(5) | TrackBack(0) | ペット | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年05月20日

恩師 中村先生の奥様からの手紙


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 中村先生が亡くなってから一年が過ぎたので
先生の奥様に手紙を書きました。
その中で、先生の思い出をブログに書いた事もお知らせをしました。
暫くして、手紙のお返事が届きました。
奥様は早速パソコンを開いて記事を読んでくれたそうです。
そして、とても喜んでくれて記事を全てプリントアウトして
先生の仏壇に供えたんだそうです。
読めないと困るだろうと、愛用していた眼鏡も一緒に添えたそうです。
この事を読んで、気恥ずかしいのと嬉しいのとがごちゃまぜな気持ちになり
胸がポカポカしてきました。
 若い医師の役に立ちたいと、献体を申し出ているので
先生の遺骨は未だに帰って来ないそうです。
その所為か、奥様の中では何だか不思議な感覚のままだと書いてありました。
遺骨が帰ると、一つの区切りが付くのでしょう。
奥様は一人暮らしになって、車の免許がなく不便と言っています。
先生が奥様が免許を取る事を反対していたそうなんです。
「免許を取ったら離婚だ!」
と言われていたらしく、今となっては不便極まりないでしょう。
全く、先生らしい。
先生なりの奥様に対する深い愛情表現だったんでしょうね。
そして、このエピソードを手紙に書いてくれた奥様の文脈からも
何だかおのろけのようなものを感じてしまうのは
私の深読みでしょうか。
人は亡き伴侶の思い出だけで生きていけるかは実感として解りませんが、
奥様は先生の憎たらしかった事も、くすぐったい気持に変えて
日々の暮らしを暖かく生きていける方なんだろうと
勝手に思っています。
今度、先生のお宅に寄らせて頂き、この確認をしてこようと思います。


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posted by アズキパパ at 16:14| Comment(4) | TrackBack(0) | ペット | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年05月15日

イブのお葬式 ラスト


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穏やかに晴れた秋の日に、イブの葬式が行われた。
私達家族と友人夫婦達は礼服とまではいかないまでも
シックな装いで、一見真面目に厳かな雰囲気を必死に醸して
葬式は始まった。
IMG_1871.JPG
祭壇には遺影と蝋燭、線香も用意している。
喪主である私が蝋燭に火を灯すと、次々と線香を焚く。
私の幼稚園から高校まで同じ学校に通った友人S君は、
仏壇に向かってから、おもむろにジャケットのポケットから数珠を
取りだした。ん?、ピンクの数珠?
良く見ると子供のおもちゃのネックレスだった。
こいつはこの辺がぬかりない。
「プププ」とあちこちから笑いが漏れる。
一通り焼香が終わったので、喪主である私が挨拶をした。
「え〜、今日は秋晴れの爽やかな良き日に、我が娘、イブの葬儀に参列下さいまして
有り難うございました。早速ではありますが乾杯をしたいと思います。
今日は在りし日のイブを思い出して賑やかに送りたいと思います。
それでは、イブの遺影に向かってイエ〜イ!」
『イエ〜イ』
妻が隣で「バカ」と呟いた。

祭壇には会費が仏祝儀袋に入れられて積まされ、黒いリボンが巻かれた
骨のおやつも飾られた。皆さん、半分パロディだと解っている。
法要は延々と続けられ、終わった頃には三日月が高くなっていた。
イブの死を完全に乗り越えられた訳ではないが、
諦めと受け入れとで少しだけ胸の重石が小さくなった気がした。
妻はこの後、9年間に渡って犬を飼う事が出来なかった。
9年といえば、イブが生きた時間である。
イブの死を乗り越えるのに、イブが生きた分の時間を要したことになる。
イブの死から9年経って、訳ありの黒ラブが我が家にやってきたのである。
犬を飼う事を踏み切れない妻はこの時、大病を患い手術をして入院をしていた。
きっと退院後の妻の慰めにもなると考えて、飼い主を亡くしたアズキを
引き取る事を強引に決めた。

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posted by アズキパパ at 17:53| Comment(2) | TrackBack(0) | ペット | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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