2015年02月17日

前略 母ちゃんへ7


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 母ちゃんの万歳で見送られてから一週間、社会人初の挫折で
家にすごすごと帰って来た私を、学校からでも帰ったかのように
変わらぬそぶりで
「お帰り。朝ごはんまだだろ」
と言ってくれた時は、嬉しさよりも申し訳ない気持ちで
いっぱいでした。
一週間で辞めた理由を聞くでもなく、今後の事を問い詰めもしない。
ただ一言
「高校へ行って、お詫びをしてきなさい。次にあの会社に入りたい人が
困るだろうから」


 一ヵ月後、神奈川県の会社に入る事を決めたときも
母ちゃんは何も言わなかったね。
普通は「今度は辞めるなよ」とか「どんな会社?」とか
聞くものだと思うのだが「体に気を付けて」だけだったね。
5月の連休に会社の担当者が車で自宅まで面接に来て
そのまま車に乗せられて神奈川に出発した時に
車に何度も何度も深々と頭を下げている母ちゃんを見て
ごめん、とつぶやくしかなかったんだ。

 入社した年は、所長の家に居候させてもらい
二年目からはアパートを借りたけど、そのアパートの隣が
ソープランドだったとは、ついに母ちゃんには言えなかった。
母ちゃん、たまたまだから。狙ったわけじゃないから。
あんまり近いとかえって行けないものだから。
本当に一回も行ってないから。

 社会人3年目の時に夜遅くなってから姉が電話を寄越した。
「母ちゃん、今日仕事で親指を落としてしまった」
「え?くっ付けられないの」
「切り口が綺麗でないから付けられない」
お盆休みで帰った時、母ちゃんの右手には親指がなかった。
包丁を人差し指と中指で挟んでご飯を作っていた母ちゃんに
「左利きになれば」なんてつまらない冗談に
「それ、気が付かなかった」と笑って言う。

 親指を落とした翌年の二月。姉に子供が生まれた。
自分にとっては姪が出来たことになる。
母ちゃんは生まれる前から大喜びで、半年も前から
孫のために着物を縫い始めた。
呉服屋に生地を買いに行った時に店員さんから
「半年も前から縫うの?男の子か女の子かも判らないのに」
と言われたらしい。
「親指が無いから、時間が掛かるし。多分女の子が生まれるよ」
予想通り、女の子が生まれたと姉から電話を貰った数日後
再び姉から電話があった。
「母ちゃん、入院した。お前に言うなって言われていたけど、
どうも癌らしい」

「母ちゃんは知ってるの?」
「知らない。手術で悪いところを切れば治るって思ってる」
手術は明後日。翌朝、会社に説明をして特急あけぼのに飛び乗った。


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posted by アズキパパ at 10:54| Comment(2) | TrackBack(0) | ペット | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
お母様の偉大さ
頭が下がりますね
自分も親になって
親の有難さを、しみじみ感じます
今は老人ホームで穏やかに過ごしてます
面会に行くたび、長生きしてよと
発破かけてきていますw
Posted by 由乃 at 2015年02月17日 11:26
由乃さん

親が長生きしている人を見るとうらやましいです。
幸い、妻の両親が80歳を超えても畑に出て
産直に作物を収めているので有難いです。

自分は親として、果たしておおらかに接しているか
自問の日々です。
子供を作る方法は教えられなくとも判りますが
子供の親になるには知識が要りますね。
自ら学ぼうとすれば学ぶ方法はありますが
周りを見渡すと、相当意識が高くないと学べません。
Posted by アズキパパ at 2015年02月18日 09:23
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